用務主事 福山 陽子

 コゲラのヒナとの出会い、別れの一ヶ月は五月であり、まるでメイストームのようでした。その消え入
りそうな、しかし一生懸命生きている小さな命をどうやって守っていけばいいのか、試行錯誤の毎日で
した。
 月の前半はひっきりなしに鳴き、エサをせがむ、その旺盛な食欲に小さいけれどたくましい生命力を
感じました。親鳥はさぞ大変だと痛感しました。しかし、全てのヒナが同じように育つわけではありません。
親鳥も自然の摂理なのか鳴き声が大きいヒナを本能的にひいきにしエサをあげるのか、3羽そろった時
のヒナ達はまさに大・中・小とはっきり大きさに差がつき、元気さもまったく違っていました。何とか一番小
さく弱いのを助けたく、小さいペットボトルで湯タンポを作ったりエサも積極的にあげてみたのですが、残
念な事になってしまいました。残りの2羽は小鳥屋さんで聞いて、すり餌とミールウォームという幼虫のい
き餌を見よう見まねであげ、スクスクと育ってくれました。
 児童たちもお箸の先につけたすり餌を交代であげてくれ、ヒナがエサを食べた時には「食べた!」「カワ
イイ!」と口々に歓声をもらし、直接エサをやる喜び、感動など、生き物に接する事が想像以上に児童た
ちになにか大きな影響を投げかけたと思います。慈愛の心をはぐくむとても良いきっかけになったのでは
ないでしょうか。失われつつある地球の自然、環境問題も含め児童たちに少しでもいいきっかけをこのコ
ゲラのヒナたちの出会いで、心に残ったらいいなと思いました。生き物を飼うという事は、ただ「カワイイ、
カワイイ」ではすまされません。エサの事、フンの世話、体調等々・・・いろいろな人々にお世話になりまし
た。五月の連休、土日にどうするか・・・幸いに、三小の保護者がかって出てくれて大変助かりました。ま
た、平日の夕方から翌日の朝までは3人の警備員さんにもみていただき、仕事以外の事まで面倒をかけ
てしまいました。こういう力がとても大切でした。この2羽のコゲラたちは本当に幸せ者です。校長先生が
朝会で児童たちにコゲラの話をして下さり、また、PTAの方や青少対の方々にも、廊下に置いてあるコゲ
ラはとても人気ものでした。 1羽のオスヒナが飛び立った後、羽の弱いメスヒナはあまりにも人や子ども
たちに慣れ、エサをもらうことに慣れすぎ、それがちょっと不安の種でした。児童たちにもエサは箸で直接
あげないで、下に落としてヒナが自分で捕るように言いました。今はこのヒナは人間によって守られている
ようですが、それが本当にいいことなのか・・・外に出した時に自分でエサを捕って無事に生きていけるの
か?カラスにやられたりしないのか・・・心配は尽きませんでした。メスヒナを獣医さんに診てもらい、カゴを
大きく変えました。これが良かったようでした。また、昼間は外の空気、風に慣れさせるために職員玄関
の所に置きました。後でこの事がとてもドラマチックになるなんて思いもしらず・・・
 話はそれますが、丁度その頃テレビで全盲の犬「ダン」の事を見ました。この話は実話で、知っている
方もいらっしゃると思います。主人公の少女たち2人はこの話を紙芝居にして賞を取り、今では道徳の本
にも載っているそうです。彼女らが幼稚園児の頃の話です。近くの川べりで全く目の見えない子犬をひ
ろい、住んでいる団地の大人たちに飼えないかと相談するのです。もちろん規則で飼えないと言われた
そうです。それに対して幼い2人は大人たちにこう言ったそうです。「人間は盲導犬などに助けられてい
るのになんで人間は動物を助けてあげられないの?」と・・・。大人たちはこの言葉で、この犬を団地の
一角でみんなで飼う許可をし、団地の団をとって「ダン」という名をつけたそうです。現在も「ダン」は元気
でいます。幼かった2人は中学生になりました。人間は大人になるにつれ、子どもの頃の純粋な心を何処
かに忘れてきているのではないでしょうか。規則やらで融通がきかなくなった大人たちの心に無心な、純
粋な心がその壁を壊しました。このことは、あらゆる面で考えさせられる思いでした。
 さて、話を戻しましょう。5月29日のオスが迎えに来た様子は全児童に見せたいくらい感動的でした。
その前にPTAの方が子どもがカゴのそばでコゲラを見たと知らせて下さり、私としては、それだけでもあ
のオスヒナが元気でいてくれたのだと感慨無量でした。多分、オスヒナだと思いますが、カゴのそばに、
やがてカゴの上に来た時を見る事ができたのは、とても奇跡的でした。別れの5月31日まで、親鳥らし
きコゲラとオスヒナは玄関前に姿をみせていました。本能なのか仲間意識なのか、コゲラのその姿はと
ても心打つものがありました。仲間が迎えに来ている・・・今ならメスヒナを放すいいタイミングだと、オス
ヒナがとまっていた桜の木に私はカゴを持っていき、手を中につっこんで、メスヒナをつかみ、桜の木に
乗せました。これが私とコゲラとの最後のふれあいでした。ずっとカゴの中だったのに校庭を大きく旋回
し飛べたことも驚きでした。自然のいとなみ、力には敬意を表するばかりでした。身近に野鳥にふれた事、
その事によって、児童たちとふれ、普段廊下であいさつだけで会話のなかったPTAの方たちと言葉を交
わし・・・今までとちがった側面をコゲラのヒナとの関わりで大きなプラスアルファとして私に沢山のプレゼ
ントをくれた気がします。  2羽のコゲラたちへ・・・アリガトウ。そして、元気でまた会えるといいね。